アートと技術革新 - ポーラ美術館企画展「モダン・タイムス・イン・パリ 1925 ― 機械時代のアートとデザイン」展示終了に寄せて

アートのあり方は、技術革新とともに変化する。
 
印象派と「写真」技術革新
19世紀後半のフランスに発した印象派は、その当時になり社会的普及を開始した「写真」という技術革新に影響を受けた、と一般に言われている。
例えば、日本語版ウィキペディア「印象派」の中では、後に第1回印象派展と呼ばれるようになった展覧会が写真館で開催されたことや、ドガが熱心な写真家であったことなどを記すとともに、写真と印象派の関係について下記のような記述がなされている。
 
写真が広がり始め、カメラが携帯可能になった。写真は気取りのない率直な態度で、ありのままの現実をとらえるようになった。写真に影響されて、印象派の画家たちは風景の光の中だけでなく、人々の日常生活の瞬間の動きを表現するようになった。
写真は現実を写し取るための画家のスキルの価値を低下させた。印象派の発展は、写真が突きつけた難題に対する画家たちのリアクションとも考えられる。
(中略)
写真のおかげで画家たちは他の芸術的現手段を追求し始めた。現実を模写することを写真と張り合うのでなく、画家たちは「画像を構想した主観性そのもの、写真に模写した主観性そのものをアートの様式に取り込むよって、彼らが写真よりうまくできる一つのこと」にフォーカスしたのである。
 

印象派の形成=発展が19世紀後半期における「写真」という技術革新に大きな影響を受けたものだとすれば、それと類似のことが現代アートと生成AIとの間にも起こると見るのが自然であろう。

[参考イラスト]
ChatGPT4oに「下記の文章に添えるイラスト図を作成してください。」というプロンプト文を与えた結果は下記の通りである。

 

なお「下記WEBページにあるモネの絵をいれながら、前記の文章に添えるイラスト図を再作成してください。https://en.wikipedia.org/wiki/Water_Lilies_(Monet_series)」、「睡蓮を描いたモネの絵をいれながら、前記の文章に添えるイラスト図を再作成してください。」、「モネの「睡蓮」にインスパイアされた要素を取り入れつつ、19世紀の写真技術と印象派の関係を表現するシーンを描いたイラスト図を作成してください。」、、「モネの「睡蓮」にインスパイアされた雰囲気や要素を取り入ながら、19世紀の写真技術と印象派の関係を表現するシーンを描いたイラスト図を作成してください。」などのプロンプト文を与えたところ、「申し訳ありませんが、今回のリクエスト内容がコンテンツポリシーに抵触しているため、イラストの生成ができませんでした。」という結果となり、イラスト図は生成されなかった。

 

そこで「19世紀の写真技術と印象派の関係を表現するシーンを描いたイラスト図を作成してください。」というプロンプト文に代えたところ、モネの「睡蓮」を暗示させるような絵画を含む下記のようなイラスト図がようやく作成された。

 

 

さらに「19世紀の画家が写真を見ながら絵を描いているシーンを作成してください。」というプロンプト文を与えたところ、下記のようなイラスト図が作成された。

 
「生成AI」技術革新はアートをどのように変容=発展させるのか?
ポーラ美術館は、企画展「モダン・タイムス・イン・パリ 1925 ― 機械時代のアートとデザイン」の紹介WEBページにあるように、「コンピューターやインターネットが高度に発達し、AI(人工知能)が生活を大きく変えようとする現在において、約100年前の機械と人間との関係は、私たちが未来をどのように生きるかを問いかけてくるでしょう。」という問題意識のもと開催されたものである。

今から百数十年前に、「写真」という技術革新の登場=発展によって絵画における写実主義がその社会的存在意義を問われたのと同じように、現代アートは「生成AI]という技術革新によって人間がアートを「創造」することとは何かという問いを突き付けられているように確かに思われる。

そうした意味で、印象派の名作を数多く所属するポーラ美術館が企画展として2023年12月16日から本日までAIとアートをサブテーマとする「モダン・タイムス・イン・パリ 1925 ― 機械時代のアートとデザイン」という企画展を開催していたことには大きな社会的意味がある。

 なお生成AIは、テキストを生成するだけではなく、写真やイラストなどの画像を生成することができる。人間型ロボットにAIを搭載し、絵筆を持たせて油絵を描かせる試みはIBM(2022)「ロボットが絵画する日 〜Vol.4  主体性の獲得、表現力向上 編〜」2022年11月08日などに紹介されているようにこれまでもなされてきたが、ChatGPT4oなど技術的により優れた生成AIを、プロの画家がファインチューニングすれば、芸術的にも意味のある「オリジナル」な絵画の「創造」ー しかもこれまでは困難であった「量産」も ー 技術的には可能になるであろう。

 しかし生成AI搭載ロボットが直接的には絵筆をもって描いた絵画は、「誰」が描いたことになるのであろうか?絵筆を操作している人間型ロボットなのか?それとも人間型ロボットに対して、使用する絵の具を指示したり、絵筆の動かし方を指示する生成AIなのか?それとも生成AIをtrainingしたり、ファインチューニングした人間なのだろうか?

 そもそも、こうした問いは適切な問いなのだろうか?
 
 アート創造における「創造」性をどのような形で論じるのがより適切なのだろうか?

 印象派がこれまでなかったような絵画を創造することで「絵画」における創造性の意味を実践的に明らかにしようとしたように、生成AIを用いて人間の絵画的創造性の新たなあり方を実践的に示すことが現在、強く求められている。

[ChatGPT4oに作成させた参考イラスト]

 

補足:美術館展示における「生成AI」技術革新の利用
ポーラ美術館の今回の展示で筆者が面白いと思ったのは、展示物に関する解説テキストを生成AIで音声化し、スマートフォンで自由に聞けるようにされていたことである。
 ポーラ美術館では常設展示の印象派絵画をスマートフォンなどで撮影することを許している点でも先進的であったが、今回の展示では、生成AIを利用し、日本語、英語、フランス語、ドイツ語、スぺイン後、韓国語、中国語(簡体/繁体)という多言語で解説が自由に聞けるようになっていた。

 ただ少し残念だったのは、そのAI音声の質が一世代前のAI音声だったことである。本サイトのカテゴリー「文章読み上げ」に収録した記事で具体的に示しているように、Google Text-to-Speechなど最近の生成AIによるAI音声読み上げは、リアルな人間と区別がつかないほどの水準に達している。今後の展示においては、そうした最近の生成AI技術を利用されることを強く希望したい。

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