内容一覧
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1.生成AIが提示する参考資料に関する注意点
生成AIで参考資料を探す際には、注意が必要である。Web経由でインタラクティブに生成AIを利用している場合でも、明示的に指示しないと、生成AIは回答の生成に際してネット上の情報をきちんとは検索しない。
このことは下記WEBページに紹介したOpen AIのChatGPT 4oの「回答」に関する参考資料の提示に関する二つのリクエスト結果の違いに端的に見ることができる。
「上記の回答に関わる参考資料を教えてください。」というプロンプト文に対する回答の生成に際してWEB検索をするように設定した場合とそうではない場合では、下記の二つを比較すればわかるように、回答内容が大きく異なる。またWEB検索をするように設定した場合には、WEB上の資料にはリンクが貼ってあり、当該資料をすぐに読むことができ便利である。(ただし書誌情報は不完全である。引用に際しては、実際にリンク先を見て、下記で示したように書誌情報の体裁をきちんとしておくことが必要である。)
またWEB検索で対象となるのはWEBページであるため、下記のように、日本語版ウィキペディアなど学術的な意味では参考資料とならないものも存在する。なおWEB上には、Google Books、Internet Archive、国立国会図書館デジタルアーカイブなどのように、OCR処理済のデジタルデータの各種資料が公開されているが、生成AIはこれらを参考資料として挙げることは残念なことにほとんどない。
例えばInternet Archiveでは、松尾芭蕉に関する参考資料としては下記のようなものが全文ダウンロードできるようになっているが、それらへの参照はない。
2.WEB検索を指示した場合のChatGPT 4oの回答
1. 松尾芭蕉の俳句とその解釈
- 『古池や 蛙飛びこむ 水の音』の解説松尾芭蕉の代表的な俳句である「古池や 蛙飛びこむ 水の音」について、深い解釈がなされています。この句は、静寂の中に蛙が飛び込む音を描写し、一見平凡な事物に情趣を見出すことで、従来の和歌や連歌、俳諧の型から一線を画した作品とされています。
日本語版ウィキペディア記事「古池や蛙飛びこむ水の音」 - 境野勝悟『「古池や 蛙飛こむ 水のおと」は人間の一生!? 松尾芭蕉の秀句の奥にある深い意味』この解説では、「古池」を永遠なる自然の生命の象徴と捉え、「蛙が飛び込む音」を人間の一生に例えています。芭蕉の句に込められた深い人生観を知ることができます。本参考資料は致知出版社のWEBページである。そのURLは下記の通りである。
https://www.chichi.co.jp/web/20200416_sakaino_basho/?utm_source=chatgpt.com
2. 俳句における創作性の研究
- 吉田靖『俳句の創造性とアイデア探索空間の関係』この研究では、俳句の創造性とアイデア探索空間の広さとの関係を検討しています。具体的には、俳句を構成する要素間の意味的距離が創造性評価にどのように影響するかを分析しています。本参考資料に関する正確な書誌情報>吉田靖(2005)「俳句の創造性とアイデア探索空間の関係」『立命館人間科学研究』第9号,pp.59-72
https://www.ritsumeihuman.com/uploads/publication/ningen_09/59.pdf - 蓬田息吹・清水大地・岡田猛『俳句創作過程の認知科学的検討──言葉に対する知覚の機能に着目して──』この研究は、俳句創作における言葉の響きに対する知覚が創作過程に与える影響を検討しています。言語芸術における知覚的要素の重要性を理解するのに役立ちます。
3. 俳句の創作指導と教育
- 皆川直凡『短詩型「俳句」の創作・鑑賞と21世紀の学びとの親和性』本論文では、俳句の創作・鑑賞活動が現代の教育における「感じる喜び」「知る喜び」「考える喜び」とどのように結びつくかを考察しています。俳句教育の意義を理解するのに有用です。本参考資料に関する正確な書誌情報>皆川直凡(2017)「短詩型「俳句」の創作・鑑賞と21世紀の学びとの親和性」『鳴門教育大学情報教育ジャーナル』No.14、pp.21-27
https://www.naruto-u.ac.jp/journal/info-edu/j14004.pdf?utm_source=chatgpt.com - 藤井君彦『「切れ」からはじめる俳句の創作指導』俳句の基本的な技法である「切れ」に焦点を当て、その指導方法を解説しています。創作性を高めるための具体的なアプローチを学ぶことができます。
3.WEB検索を指示しなかった場合のChatGPT 4oの回答
[注意]WEB検索を指示しなかった場合の下記回答に挙げられている資料のほとんどは実際には存在しない。ChatGPT 4oの場合にはこうしたことが多いので注意する必要がある。
1. 松尾芭蕉と俳句の創作性
- 『芭蕉全句集』(松尾芭蕉 著)芭蕉の俳句を網羅的に収録した資料。彼の句の背景や表現技法を知るのに役立つ。[筆者注]松尾芭蕉『芭蕉全句集』は、乾裕幸, 桜井武次郎, 永野仁編(1976)『芭蕉全句集』桜楓社や『芭蕉全句集 : 現代語訳付き』(雲英末雄, 佐藤勝明 訳注、角川学芸出版、2010年)など確かに存在する。
- 『芭蕉俳句集』(高浜虚子 編)
- 近代俳句の巨匠・高浜虚子が編纂した芭蕉の俳句集で、鑑賞の視点が詳しく解説されている。
[筆者注]高浜虚子編『芭蕉俳句集』は国会図書館サーチでは見つからない。松尾芭蕉に関する高浜虚子の著作は高浜虚子(1951)『芭蕉』中央公論社、pp.254、高浜虚子ほか(1953)『芭蕉』朝日古典講座 第3集、高浜虚子(2020)『芭蕉』中央公論新社(中公文庫 た91-2)、264ppなどがあるが、高浜虚子編の『芭蕉俳句集』というタイトルの著作はない。
『芭蕉俳句集』というタイトルの著作としては、小沢武二編(1926)の春陽堂版、潁原退蔵 校註(1932,1950)の岩波文庫版、中村俊定 校訂(1970)の岩波文庫版、潁原退蔵 校註(2005)の一穂社版などがあるが、高浜虚子編はない。(ほかに三兼大石(1932)『詳解芭蕉俳句集』芳文堂がある。) - 『奥の細道』(松尾芭蕉 著)旅の記録としての文学作品でありながら、芭蕉の詩的感性や創作における美意識を知る手がかりとなる。
- 『蕉門俳諧の研究』(久富哲雄 著)芭蕉とその弟子たちの俳諧を詳細に分析した研究書。芭蕉の俳句の創作性の本質について考察されている。[筆者注]久富哲雄『蕉門俳諧の研究』は国会図書館サーチでは見つからない。「蕉門俳諧の研究」という語句を含む著作としては、根来尚子氏の博士論文「其角と蕉門俳諧の研究」(2011)があるだけであり、単行本はない。
2. 俳句における創作性・独自性の概念
- 『俳句の創造性』(大岡信 著)俳句の「創造性」とは何かを論じた評論。俳句の本質と独自性についての深い考察がある。[筆者注]「俳句の創造性」というタイトルを含む著作は国会図書館サーチでは見つからない。国会図書館サーチで、「著者・編者」欄を大岡信に、キーワード欄を「芭蕉」とすると110件がヒットするが、「創造性」という語句を追加した場合には2件となる。その2件の中には、大岡信が「俳句」の創造性について触れたものはない。
- 『俳句の作り方』(長谷川櫂 著)俳句の基礎から応用までを解説した本。創作性をどう生み出すか、どのようにオリジナリティを発揮するかについて述べられている。[筆者注]「俳句の作り方」というタイトルを含む著作は国会図書館サーチでは76件ヒットするが、長谷川櫂を著者または編者とする著作は見つからない。国会図書館サーチで、「著者・編者」欄を長谷川櫂に、タイトル欄を「俳句」とすると202件がヒットするが、「創造性」という語句を追加した場合には0件となる。また「創作性」に代えて、「オリジナリティ」をキーワードとした場合には1件がヒットするが、長谷川櫂が著者となっているのは「特集 現代俳句叢書 『盆地の灯』一句鑑賞関連」というタイトルのものであり、無関係と思われる。
- 『詩とは何か』(岡井隆 著)俳句や短歌、詩における「オリジナリティとは何か」について論じた評論。[筆者注]「詩とは何か」というタイトルを含む著作は国会図書館サーチでは57件ヒットするが、岡井隆を著者または編者とする著作は見つからない。キーワード欄を「オリジナリティ」とした場合も同じく該当する著作はない。さらにまた国会図書館サーチで、「著者・編者」欄を岡井隆に、キーワード欄を「オリジナリティ」とすると2件がヒットするが、その2件の中には岡井隆が「オリジナリティ」について触れたものはない。
3. 創作性・オリジナリティに関する理論的考察
- 『創造性の心理学』(Mihaly Csikszentmihalyi 著)創造性の概念を心理学的観点から論じた本。俳句の創作性と絡めて考えるのに役立つ。[筆者注]「創造性の心理学」という語句をタイトルに含むCsikszentmihalyiの本は、M.チクセントミハイ(須藤祐二, 石村郁夫訳,2016)『クリエイティヴィティ : フロー体験と創造性の心理学』世界思想社である。なお『創造性の心理学』に完全に一致するタイトルの本は、黒田正典編(1971)『創造性の心理学』朝倉書店だけである。
- 『文学とは何か』(ロラン・バルト 著)言葉の創造性やテキストのオリジナリティについて考察された理論書。[筆者注]『文学とは何か』というタイトルの著作としては、加藤周一(1950)『文学とは何か』角川書店(角川新書)、サルトル(加藤 周一、白井健三郎訳、1952)『文学とは何か』サルトル全集 第9巻、人文書院など多数存在する。しかしながらロラン・バルトの翻訳書に「文学とは何か」という語句をタイトルに含む本は存在しない。また国会図書館サーチで、著者・編者を「ロラン・バルト」とし、キーワードを「創造性」とした場合には、1件もヒットしない。
- 『芸術と創造性の本質』(アンリ・ベルクソン 著)創造性とは何かについて哲学的に論じた名著。文学や芸術における創造的行為の本質を理解するのに有用。[筆者注]『芸術と創造性の本質』というタイトルの著作は、国会図書館サーチでは1件もヒットしない。また国会図書館サーチで、著者・編者を「ベルグソン」とし、キーワードを「創造性」とした場合も、該当は1件もない。
また杉山直樹「ベルクソン関連書誌(邦語単行本)」https://www2s.biglobe.ne.jp/~sug/biblioj1.htmlを見ても、「創造性」という語句を含む邦語単行本は存在しない。
なお杉山直樹「ベルクソン関連書誌(邦語論文)」https://www2s.biglobe.ne.jp/~sug/biblioj2.htmlや国会図書館サーチによると、ベルグソンにおける「創造性」概念について触れた論文としては、藤井奈津子(2002)「ベルグソンにおける創造性の理論」『臨床教育人間学』(京都大学大学院教育学研究科)第4号、pp.101-117、土屋靖明(2003)「ベルクソンにおける創造性の問題-芸術的創造の教育学的考察」『東北大学大学院教育学研究科 研究年報』pp.1-14などがある。
4. 俳句の改変と創作性の関係を論じた研究
- 『芭蕉の方法』(山本健吉 著)芭蕉の俳句の革新性について詳しく論じた書籍。改作や表現技法に関する考察が豊富。[筆者注]山本健吉『芭蕉の方法』は国会図書館サーチでは見つからない。山本健吉による松尾芭蕉に関する著作は確かに存在するが、山本健吉(1955)『芭蕉-その批評と鑑賞1』新潮社、山本健吉(1955)『芭蕉-奥の細道まで:その批評と鑑賞2』新潮社、山本健吉(1956)『芭蕉-終焉まで : その批評と鑑賞3』新潮社といったタイトルであり、『芭蕉の方法』はない。
- 『俳句の詩学』(金子兜太 著)俳句の詩的表現とオリジナリティについての論考。[筆者注]金子兜太による俳句に関する著作は確かに存在するが、『俳句の詩学』というタイトルの著作は国会図書館サーチでは見つからない。なお松尾芭蕉に関わる金子兜太の著作としては、金子兜太(1965)『今日の俳句 : 古池の「わび」よりダムの「感動」へ』(光文社、カッパ・ブックス)や金子兜太(1988)『芭蕉の旅一茶の旅』(富山県教育委員会、精神開発叢書114)、金子兜太(2002)『金子兜太集』第2巻 筑摩書房などがある。
- 『日本語の美学』(ドナルド・キーン 著)日本の文学・詩・俳句の美的特徴を論じた書籍。創作性の観点からも有益な考察が多い。[筆者注]ドナルド・キーンによる日本語に関する著作は確かに存在するが、『日本語の美学』というタイトルの著作は国会図書館サーチでは見つからない。なお日本語に関わるドナルド・キーンの著作としては、ドナルド・キーン(1993)『日本語の美』中央公論社やドナルド・キーン(2013)『ドナルド・キーン著作集』第7巻 新潮社などがある。
5. 実践的な俳句創作に関する資料
- 『NHK俳句テキスト』(NHK出版)俳句創作の実践的なアドバイスが豊富に掲載されており、創作性の視点を考えるヒントとなる。[筆者注]NHKのEテレの番組テキストの月刊雑誌のひとつに『俳句』が確かにある。
- 『超入門! はじめての俳句』(村井康司 著)俳句をどのように創作するか、そのプロセスを学ぶのに適した入門書。[筆者注]村井康司による俳句に関する著作は確かに存在するが、『超入門! はじめての俳句』というタイトルの著作は国会図書館サーチでは見つからない。
まとめ
「創作性とは何か」「俳句における独自性とは何か」を考えるためには、芭蕉の俳句そのものを深く理解することが重要です。加えて、創造性に関する心理学的・哲学的な視点や、俳句の表現技法に関する研究書を参照することで、より深い考察が可能となるでしょう。