ChatGPTによる英訳でまず最初に気になったのは、「主観と客観」がsubjectivity objectivity という訳になっていたことです。
というのも、 subjectivityやobjectivityといった語句における接尾辞「-ity」は、形容詞(この場合で言えば、subjectiveおよびobjective)から抽象的な名詞を導き出す機能を持った語句です。そうした形容詞からの派生的名詞として、subjectivityやobjectivityは「・・・であること」、「・・・的なもの」というニュアンスの名詞となります。
そのためsubjectivityやobjectivityという語句の日本語訳としては、一般的には、「主観性」や「客観性」という語句が当てられ、「主観」や「客観」といった名詞とは異なる意味合いをもったものとなっています。
(なお日本語における哲学用語として「主観」と「主体」、「客観」と「客体」は区別されていますが、英語ではそうした区別が単語そのもののレベルではありません。そのため日本語訳とて、subjectivityは「主体であること」や「主体的であること」を、objectivityは「客体であること」や「客体的であること」を意味することもあります。)
実際、ChatGPTに対して、subjectivityとobjectivityの日本語訳を尋ねると、下記のように、「主観性」、「客観性」という語句が返ってきます。
「subjectivity」と「objectivity」を日本語に訳すと、それぞれ以下のようになります。
Subjectivity: 主観性
Objectivity: 客観性
Objectivity: 客観性
「主観性」は、個人の感情や意見、視点に基づいた考え方を指し、「客観性」は、個人の感情や偏見を排除し、事実やデータに基づいた公平な考え方を指します。
こうしたことは、以下に挙げるように、代表的な英和辞典の記述においても確認できます。
- 研究社『新英和大辞典』第6版
- 大修館書店『ジーニアス英和大辞典』subjectivity1 主観性(⇔ objectivity).
2=subjectivism.objectivity客観性, 客観主義, 客観的実在(⇔ subjectivity);公平さ, 中立的であること;(個々の考えに左右されずに)正確であること - 小学館『ランダムハウス英語辞典』subjectivity【1】主観的であること,主観性.
【2】(pl.-ties)主観的な考え;個性,(特に作品に表された)芸術家の個性.
【3】自己中心性,内省的傾向.
【4】主観的実在.
[1812.SUBJECTIVE+-ITY; 哲学用語としては<フランス語 subjectivité]objectivity【1】客観性:He tries to maintain objectivity in his judgment. 自分の判断が客観的であるよう努める.
【2】(思想・感情などより)外面的事象を問題とすること,客観主義的傾向.
【3】外的現実,客観的実在.
subjectivity
1 主観的なこと, 主観性 (cf. objectivity).
2 主観, 主観主義 (subjectivism).
2 主観, 主観主義 (subjectivism).
objectivity
客観的[普遍的]妥当性, 客観性, 対象性 (cf. subjectivity).
また、下記に挙げた日本語事典では、主観・客観に対応する英単語としてsubjectやobjectは挙げられていますが、subjectivityやobjectivityは挙げられていません。
- 朝日新聞社『知恵蔵』 「主観/客観」 subject/object
- 平凡社『マイペディア』 「主観・客観」
- 久保陽一「主観/客観」『哲学中辞典』知泉書館、pp.569-571 〔英〕subject / object
- 岩佐茂「対象」『哲学中辞典』知泉書館、p.761 〔英〕object
「[対象(object)は]主体•主観(subjectum)に対立した概念であり,それとの相関で用いられる。元々の意味は,subjectumの前に投げ出されたものを指し,その意味では,objectumは,客体とも訳される。」
「主観と訳されるラテン語subiectum(英語subject)の原義は〈基体〉〈主語〉で,元来ギリシア語ヒュポケイメノンの訳。一方,客観と訳されるラテン語obiectum(英語object)の原義は〈前方に投げられてあるもの〉,すなわち表象ないし観念の意。」