個人の声に関する著作権

「個人の声に関する著作権」あるいは「声の肖像権・パブリシティ権」
ChatGPTのAI音声に関して、下記の関連記事1では、Breeze, Cove, Ember, Juniper,Skyの五種類(five different options)とされているが、下記関連記事3にあるように、スカーレット・ヨハンソンの申し立てによりSKYは利用停止となっている。

本問題は、「個人の声に関する著作権」あるいは「声の肖像権・パブリシティ権」という新たな法的問題を提起するものとして興味深い。

 

声の結果的類似性に関わる、AI音声開発における依拠性問題
本問題に関して、OpenAIは、関連記事1において、下記のように「SKYの声は、Scarlett Johanssonのものではない。Scarlett Johanssonに似せることを意図したものでは決してない。」、「SKYの声は、Scarlett Johanssonとは異なる別のプロの女優の声である。」と主張している。

A statement from our CEO, Sam Altman, on May 20, 2024: “The voice of Sky is not Scarlett Johansson’s, and it was never intended to resemble hers. We cast the voice actor behind Sky’s voice before any outreach to Ms. Johansson. Out of respect for Ms. Johansson, we have paused using Sky’s voice in our products. We are sorry to Ms. Johansson that we didn’t communicate better.”

We believe that AI voices should not deliberately mimic a celebrity’s distinctive voice—Sky’s voice is not an imitation of Scarlett Johansson but belongs to a different professional actress using her own natural speaking voice. To protect their privacy, we cannot share the names of our voice talents.

 

 こうしたOpenAIの反論との関係で言えば、本問題は、IBM PC(1981)の互換BIOSに関する著作権問題と類似の構造をもっている。CompaqはIBM PC(1981)の互換BIOS開発に当たって、自社が開発した互換BIOSがIBM社のBIOSのソースコードと類似性を持つにも関わらず、依拠性がないので著作権侵害にならないと主張した。
そして依拠性の非存在を法的に証明するための手段として、「クリーンルーム」方式による開発をおこなった。すなわち、IBM社によるBIOSソースコードの公開は、IBM PCのBIOSのソース・コードへの依拠性の非存在証明を困難化するという法的役割を持っていた。そのためCompaqは100万ドルの開発資金を投じ、IBMが公開したBIOSソースコードをまったく見たことのないプログラマーだけで新規にBIOSを開発した。

 AI音声の新規開発に際して、著名人の声との類似性を根拠とした著作権侵害に対する法的反論のためには、「Scarlett Johanssonに似せることを意図したものでは決してない。」ということを裏付ける法的証拠、すなわち、Compaqの互換BIOS開発の場合と同じような依拠性の非存在証明が必要となるように思われる。
 ただし依拠性の非存在証明が法的にできたとしても、声の肖像権侵害・パブリシティ侵害という問題は別途残ると思われる。これは、有名人のモノマネタレントが本人そっくりの声でのモノマネをする行為に関わる問題と同じである。モノマネタレントの場合に法的侵害を認めないとすれば、生成AIの場合でも法的侵害が認められないということになるのであろうか?興味深い問題である。

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