ブックタイトル多聴多読マガジン Vol.55 2016年04月号 試読
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多聴多読マガジン Vol.55 2016年04月号 試読
特別講義2物語が脳から愛される、3つの理由Curtis Kelly(神経科学者)多読を通じて我々が享受する物語の力は、もっと見直されるべきです。情報伝達にはふたつの形式、即ちナラティブな物語形式と説明的な講義形式があります。両方重要ですが、現在の神経科学では我々の脳は物語形式のほうを好み、相性が良いことがわかっています。第一に、物語から得た情報のほうが脳はより多く記憶し、また長く覚えておくことができるのです。例えば、テネシー大学のOaksは、物語形式と講義形式のふたつを、記憶力の点で比較しました。物語もしくは講義を聞いたリスナーに対して、その直後と、3週間後と5週間後にテストを行ったのです。その結果、5週間経った後でも、物語を聞いた人々のほうが2倍以上も、重要な点を覚えていました。関西大学商学部国際ビジネス専修教授。30以上の論文を執筆し、神経科学と言語学習に関する発表は400以上を数える。モットーはThereward is in the journey.http://www.osaka-gu.ac.jp/php/kelly/物語と記憶力:説明より物語のほうが記憶に残る物語は記憶を持続させる点でも有効です。2013年心理学者のDan Johnsonは、抽象的な概念を覚えるのに、2~3行の小さな物語を作って覚えた生徒は記憶力が良くなり、数日間にわたってそれを覚えていたことを発見しました。物語と感情:物語がもたらす3つの神経伝達物質第二に、物語の優れた点のひとつは、人の感情を揺さぶることです。感情と学習が深く結びついていることはよく知られた事実でしょう。我々の感情を揺さぶる感動的な物語は実際、3つの重要な神経物質を放出させます。ひとつめはドーパミンで、これは人にやる気を促し、質の高い学習には不可欠な神経伝達物質です。2番目がコーチゾル。これはストレス・ホルモンで、集中力を高めます。そして3つ目が意味付けを司る神経伝達物質、オキトシンです。神経科学者のPaul Zakは、感動的な物語はコーチゾルとオキトシンの放出を促し、その結果、より高い集中力と共感力を人々にもたらすことを発見しました。散歩をしているときのような、登場人物が脈絡もなく出会うような映像を見たとしても、こうした効果は得られません。この3つの神経伝達物質の放出には、ある明確な構造が必要なのです。それこそがすべての物語が持つストーリーの円環、すなわち主人公による行動開始、クライマックス、そして行動の帰結という閉じた円環です。(参考文献)Oaks, T. (1995). Storytelling: A NaturalMnemonic: A Study of a Storytelling Method toPositively Influence Student Recall of InstructionZak, P. J. (2015). Why Inspiring Stories Make UsReact: The Neuroscience of Narrative. Cerebrum36